
分娩後にフレッシュチェックをして、なるべく早く種付けしてるのに、なかなか繁殖成績が上がらない、、、。
やっと受胎したと思ったら、胚が死んでしまったり、、、。一体なぜかしら?

実は「いつ妊娠したか」が、次の泌乳期の牛の体調や健康状態、さらには妊娠率や子牛の性別にまで影響するという研究結果があります。
『今乳期の繁殖』は実は『前乳期』から始まっているという考え方です。
結論から申しますと、130日以内に受胎させよ!!!です。
そうすれば次の乳期も順調に繁殖が回り、スムーズに受胎する高繁殖性サイクルに突入します。
日々の繁殖検診で、分娩後40日前後の牛の状態を診ます。
時々「ガリガリ」に痩せた牛(BCS2.5以下)を見かけます。この様な牛は前の乳期が長い牛が多く分娩後に病気になった牛が多いそうです。
病気がなくても、それだけたくさん乳を出している証拠かもしれませんし、もし病気をしていた場合は、さらに体脂肪が削られてしまっているでしょう。
そういう牛の卵巣はおそらく機能が落ちていて、卵巣静止や卵胞嚢腫などの繁殖障害を抱えている可能性が高いと感じています。
そして実は、こうした「体がガリガリになる原因」は、前の泌乳期の長さや妊娠時期に関係しているというのが今回のテーマです。
今回ご紹介するのは、「130日以内に妊娠が成立すると、次の泌乳期の体脂肪変動が少なく、健康で繁殖成績が向上する」という “高繁殖性サイクル(High Fertility Cycle)”の概念についてです。
🔍 論文の概要
- 出典:Middleton et al., Journal of Dairy Science, 2019
- 対象:1,000頭以上のホルスタイン乳牛
- 3回搾乳
- 1日の平均乳量は42キロ
- TMR給与
- 目的:分娩から妊娠までの期間と分娩後の体脂肪スコア(BCS)の変化が、健康・繁殖成績・胚損失・子牛の性別に与える影響を評価
📈 結果1:早期妊娠で分娩時の体調が良好に
分娩間隔が長い牛ほど、分娩時のBCSが高く、分娩後30日以内のBCSの低下が大きかった。
| 項目 | Figure 1 (分娩間隔とBCS) | Figure 2 (BCS変動と分娩間隔) | 関係性の要点 |
|---|---|---|---|
| 前回の妊娠時期(DIM) | DIMが短い(≦130)と、次の分娩時BCSが低い傾向 | DIM≦130群の方がBCS維持・増加の割合が高い | 早期妊娠ほど、BCSが安定しやすい |
| 分娩時のBCS | 長い間妊娠しなかった牛はBCSが高くなりやすい | 分娩時BCSが高すぎると、その後急激に減少しやすい | BCS高すぎは体脂肪減少の原因となる |
| 分娩後30日のBCS変動 | 分娩時BCSが高いと、減少幅が大きくなる傾向 | BCS減少群は繁殖・健康リスクが高い | 分娩時BCSとその後の体調には因果関係がある |
| 高繁殖性サイクルとの関係 | 早期妊娠によりBCSが適正になる | BCSが安定していれば次の繁殖も良好 | 妊娠タイミングが次の泌乳期の健康と繁殖に影響 |
130日以内に妊娠した牛では、次の分娩時の体脂肪スコア(BCS)が2.75~3.0の適正範囲に保たれていました。
一方で、妊娠が遅れた牛(160日以上)はBCSが高く(平均3.35)、分娩後の急激な体脂肪減少を引き起こしていました。
乳牛は分娩後、エネルギー需要の増加により**体脂肪(Body Condition Score, BCS)**を失います。特に妊娠が遅れると、泌乳後期や乾乳期中に過剰な脂肪を蓄積しやすくなり、次回分娩時のBCSが高くなる傾向があります。高すぎるBCS(≧3.5)は、分娩後の代謝性疾患(ケトーシス、脂肪肝など)のリスクを増加させ、結果として受胎率や繁殖効率を低下させます。
乾乳期間が長かった牛は、分娩後に周産期疾患に陥るケースが多いと感じているのではないでしょうか?
農家さんによって繁殖中止(淘汰)にするタイミングはさまざまです。
受胎するまで授精を続ける方や分娩して300日以内に受胎しなかった牛は繁殖中止にする、早い方は分娩後200日で繁殖中止にする方もいます。どこが判断基準かは農場のよリますが、受胎が遅れるほど分娩時の体重は重くなり、分娩前後の病気にかかりやすくなりそうですね。
つまり、130日以内に受胎させることで次の分娩後のBCS低下を防ぐことができるそうです。

この写真の様にBCSが4近くある牛は分娩後にBCSの落ち込みが大きく、このような状態になると分娩後130日以内に受胎させることは困難になります。

本牛は分娩後に乳熱、ケトーシスを発症し左側のケン部が陥没した状態になりました。
十分に餌を食べれていない状態です。
一方、130日以内に妊娠した牛では、泌乳末期の過剰な栄養蓄積が抑えられ、分娩時のBCSも適正(2.75〜3.0)に保たれやすくなるとされています。これにより、分娩後の体脂肪減少が穏やかになり、健康リスクも低下します。
MGBC群:分娩後にBCS(体重)を維持または増加させた群
LBC群:分娩後にBCS(体重)が減少した群
| 群分類 | 疾患なし | 単一疾患あり | 複数疾患あり | 主な疾患例 |
|---|---|---|---|---|
| MGBC群 | 約93% | 6% | 1% | ケトーシス、DAなど |
| LBC群 | 約80% | 13% | 7% | RP、メトリティス、双子など |
| 統計結果 | 群間で有意差あり(P < 0.05) | ― | ― | MGBC群の方が明らかに健康状態が良好 |
体重が減少した牛は疾患リスクが高く
胎盤停滞(RP)
子宮脱・子宮炎(メトリティス)
四胃変位(DA)
ケトーシス(KET)
双子分娩(TWIN)など
の疾病を複合して発症します。
💡 結果2:BCSが安定している牛ほど健康で妊娠もうまくいく
MGBC群:分娩後にBCS(体重)を維持または増加させた群
LBC群:分娩後にBCS(体重)が減少した群
| 群分類 | 乳量(60日目時点, kg/日) | BCS変化の内容 | 備考 |
|---|---|---|---|
| MGBC群 | やや低い | BCSを維持または増加 | 健康・繁殖には有利 |
| LBC群 | やや高い | BCSを減少させた | 初期乳量はやや高めだがリスクも増加 |
BCSを減らしたLBC群は、60DIM時点の乳量がMGBC群よりやや高い傾向があります。
しかし、BCSを維持・増加させたMGBC群の方が、健康状態や繁殖成績が良好であることが他の図(Figure 4, 5)と一致しています。
つまり、「一時的な高乳量」か「長期的な健康と繁殖成績」かのバランスをどうとるかが管理のカギになります。
| 群分類 | 経産牛のP/AI(%) | 初産牛のP/AI(%) | 備考 |
|---|---|---|---|
| MGBC群 | 64% | 45% | BCSを維持または増加。繁殖に有利 |
| LBC群 | 51% | 46% | BCSが減少。経産牛で有意に劣る |
| 統計有意性 | 有意差あり(P=0.04) | 差なし | 経産牛でのみ有意差が見られた |
🔍 ポイント解説:
- 経産牛では、BCSを維持・増加させた群(MGBC)の方が13ポイント高い妊娠率。
- 初産牛では群間差はなく、BCS変化の影響は小さいと考えられます。
本実験の初回授精プログラムはG6G /オブシンクプログラムを採用しています。
全ての牛が分娩後75〜81日で初回授精を実施しています。
その初回受胎率はBCSが落ち込んだ経産牛で51%もあります。高い乳量でもこれだけの受胎率が出るんですね。
しかし、問題は次に続く胚死滅です。
📈 結果3:BCS変化別の妊娠損失(Pregnancy Loss)の発生率
さぁ、胚死滅率を見てましょう。
| 妊娠損失の期間 | MGBC群(n=64) | LBC群(n=183) | P値 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| Day 35〜60(早期胚死滅) | 0.0%(0/64) | 8.2%(15/183) | 0.02 | 有意差あり(LBC群で明らかに高い) |
| Day 61〜119(中期損失) | 9.4%(6/64) | 3.6%(6/168) | 0.08 | 有意差なし(傾向あり) |
| Day ≥120(後期損失) | 5.2%(3/58) | 2.5%(4/162) | 0.32 | 差は見られない |
- **早期の妊娠損失(Day 35〜60)**は、BCSが減少したLBC群でのみ発生し、有意に高かった(P = 0.02)。
- 中期・後期の妊娠損失には有意差は見られなかったが、LBC群でやや損失傾向が高い。
- MGBC群は早期損失がゼロであり、分娩後のBCS安定が妊娠維持に重要であることを示唆。
BCSを減少させた牛ほど妊娠を維持できず、特に初期の胚死滅が多いという重要な知見が得られました。
経験的にもBCSが低い牛は、受胎したと思っても胚が死滅しているケースは非常に多いと感じます。
せっかく受胎していたのに、とても残念な気持ちになります。
📈 結果4:BCS減少量と出生子牛の性別(オスの割合)の関係
され、体重減少と子牛のオスメスも関連性があるそうです。
| BCSの減少量(分娩後30日間) | 雄子の出生割合(%) | 備考 |
|---|---|---|
| 減少なし(0.0) | 約65〜70% | 最も高い雄子出生率 |
| 中程度減少(-0.25) | 約55% | 雄:雌比が均衡に近づく |
| 大きな減少(-0.5 以上) | 約30〜35% | 雄子出生率が明確に低下 |
BCSを減少させなかった牛は、雄子が生まれる確率が高い(自然な性比よりも雄寄り)。
一方、BCSが大きく減少した牛では、雌子の出生割合が増加し、雄子の出生率が著しく低下。
この結果は、Trivers-Willard仮説(栄養状態の良い母体は雄子を産みやすい)を支持しています。
さらに、BCSの減少が大きかった牛では、生まれた子牛が雄子である割合が低下していました。 これは母体の栄養状態が子の性に影響を与えるとする「Trivers-Willard仮説」を支持する結果です。
- BCSを維持・増加した牛群(MGBC)は、病気が少なく
- 妊娠率(P/AI)が高く(64% vs 51%)
- 妊娠損失率(特に初回AI後35~60日)が著しく低い(0% vs 8.2%)
💡 結果②:BCSが安定している牛ほど健康で妊娠もうまくいく
🛠️ 実践へのヒント
- 妊娠を130日以内に成立させる:Voluntary Waiting Period(60〜75日)を活用
- BCSを2.75〜3.0に保つ:乾乳期と泌乳末期の栄養管理がカギ
- 分娩後30日間のBCS変化に注意し、減少が大きい牛の繁殖計画を見直す
📝 まとめ
1回の妊娠のタイミングが、次の繁殖成績や健康状態を大きく左右する。
これが「高繁殖性サイクル」の核心です。
早期妊娠(≤130DIM)
↓
分娩時の適正BCS(2.75〜3.0)
↓
体脂肪減少の抑制
↓
疾病の減少・子宮の早期回復
↓
高い受胎率・胚の維持
↓
次の泌乳期での早期妊娠へ
この流れは、好循環を形成する「高繁殖性サイクル」を示しています。
- 早期妊娠 → 脂肪の蓄積が適度 → 分娩時の体調が良好
- その結果、分娩後の健康トラブルが減り、再び早期妊娠が可能になります
- 一度このサイクルに入ることで、牛の寿命延長、廃用率の低下、経済的損失の回避が可能になります
この高繁殖性サイクルが周り始ると
| 効果 | 説明 |
|---|---|
| 分娩時BCSが適正に維持される | 分娩トラブルやケトーシスの予防 |
| 分娩後の健康状態が良好になる | 子宮炎や乳房炎などの疾病が減少 |
| 初回AIの受胎率が向上する | 繁殖効率が改善、再発情の遅れが減る |
| 胚損失が減る | 妊娠の維持が安定し、分娩率が向上 |
| トータルで高い繁殖成績が維持される | 早期妊娠→健康→再び早期妊娠の循環 |
今の妊娠が、未来の健康と繁殖をつくる。
単に受胎させるのではなく、牛の生理とリズムに寄り添った繁殖管理が、長期的な乳量・健康・経済性に結びつくことをこの研究は教えてくれます。
繁殖が回っている農家は繁殖サイクルの好循環が起こっており、分娩して50日程度で明瞭は発情が観察され70日で1回目の授精・100日前後で2回目の授精し8割程度の牛が120日で受胎しているいます。
分娩間隔が400日を切っている農家さんは、毎年400日を切ります。
一度、分娩間隔400日切りを達成できた農家さんは、その後
“高繁殖性サイクル(High Fertility Cycle)”
が、待っているかもしれません!!!
分娩間隔400日目指して頑張るぞ!(妊娠日数が280日なので平均120日以内に受胎させるぞ!)
🔗 参考文献
Middleton, E. L., Minela, T., & Pursley, J. R. (2019). Relationships among body condition score loss, health, and reproductive performance in dairy cows. Journal of Dairy Science, 102(6), 5577–5587.
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