
この牛を受胎させたいんだけど、獣医さん何とかできないかしら

分かりました!任せてください!
農場の方に発情が分からない・なかなか受胎しない牛を受胎させてほしいとお願いされたこと、ないでしょうか?わたしは、このような相談を受けた際、燃えます。絶対この牛を受胎させるんだ!絶対に!
今までその農場をささえてきた家族同然の牛、血統的に優秀な牛、このような牛が受胎することができれば農場に滞在することができます。受胎しなければ、残念ながら譲渡することになるでしょう。
自然発情こそが最高の発情!
ファストバックプログラム・薬液注入を併用!
獣医師は発情がわからない=ホルモン剤を用いて発情を誘起させることに執着してしまいがちです。
そんな中、子宮や卵巣に問題は無いのに、ホルモン剤を投与して授精してもなかなか受胎しない牛がいます(牛本来の周期を人為的に短縮することが向かない牛が存在するように感じます)。
牛の発情周期は18-24日でその真ん中の21日が一般的な発情周期日数です。しかし、このような周期通りに回っていない牛も存在します。
今回は、ホルモン剤を投与しても受胎せず、丁寧にその牛の発情周期を探って授精したら受胎した一例をご紹介します。
症例1 13歳の黒毛和牛(発情サイクル30日)
分娩後56日 卵巣静止でGnRH製剤投与し治療開始。分娩後88日に黄体形成確認。その後、PGを投与・CIDR・プログラム授精といった処置をしても一度も発情を示すことはなく受胎しませんでした。計5回の授精をしてもなかなか受胎しません。妊娠鑑定するたびに不受胎という診断を下しホルモン剤処置に入ります。
最後のチャンスと思いホルモン剤を投与するのをやめて自然の発情周期を追ってみることにしました。もちろん発情を示すことはないので足繁く農場に通ったところ、この牛の周期は30日であることが分かりました。黄体が小さくなり始めて排卵するまで10日もかかりました。
最後6回目の授精を行ったのは分娩後254日です。排卵確認をしてファストバックプログラム(妊娠鑑定まで実施)を併用し、ようやく受胎を確認しました。
2回目の妊娠鑑定をして一安心、牧場主のかたは赤飯を炊くといって喜んでくれました(冗談かな)
発情周期が30日にもなるとなかなか黄体が退行しないので、途中、本当に黄体が退行するのか?という疑念にもなりましたが、畜主の方にも協力していただき受胎させることができました。

症例2 20ヶ月 育成F1(発情サイクル21日)
F1は和牛✕乳牛の交雑でできます。そのF1に普通の種を授精するとF2となります。このF2の市場価値はほとんどありません。そこでF1に和牛の受精卵移植を行い、純粋な和牛を生ませることが目的です。
育成を開始して11ヶ月頃から12ヶ月まではいい発情がきていましたが、13ヶ月を過ぎた頃から発情がわからなくなる。
そこで、わたしはPGを投与して発情を誘起して移植することにしました。
PGを投与して10日後無事に移植完了。
その一回目の移植では残念ながら妊娠ー。ちゃんと周期で発情が来ました。
その後、21日周期で安定的に発情が来ます(汗)
5日目のHCG注射やファストバックプログラムを行うも、ことごとく発情がきて妊娠鑑定までいきません。
最終的に何をやって受胎したと思いますか?
答えは薬液注入です。
5回目の移植でファストバックプログラムを実施しました。シダー抜去後、しっかり二日後に発情回帰。
その発情で希釈したイソジンを注入。
7日後に6回目の受精卵移植!育成牛といえど太ってきたため、ラストチャンスでした。
見事、ラストチャンスで受胎です。
ここまで受胎しない牛で、薬液注入したら受胎するのは薬液注入には何かしらの効果があるかもしれませんね。
なかなか、受胎しない牛が受胎した瞬間、代えがたい喜びが訪れます。
症例3 9歳の黒毛和牛(発情サイクル28日)
分娩して70日目のチェックで嚢腫を確認しPRID(シダー+E2カプセル)を挿入する。
PRID抜去後、発情し授精するも不受胎。
その後、PG投与し授精するも不受胎。
これはホルモン剤は効かない牛だと悟り自然発情を待つことに、周期が28日だと判明。
発情は示さないのでエコーで発情を確認後、授精しファストバックプログラムを行う。
排卵後5日目の黄体は15mm程と小さい(下の写真)。
周期が28日なのでファストバックは妊娠鑑定するまで行い、無事に受胎確認。
分娩後158日で受胎したので、まずまずとしよう。

症例4 19ヶ月齢 ホルスタイン育成
育成牛で発情はくるのになかなか受胎しない、段々と太ってきてしまい肉転等にした経験はないでしょうか?育成牛が受胎しない場合は今までかかった経費がまるまる損となってしまいます。
育成牛はなんとか受胎させ、分娩し搾乳牛・母牛として活躍して欲しいものです。
症例は14ヶ月令で初回自然発情を示す。
その後、15ヶ月令で初回授精実施。それから、2回目(55日後)、3回目(19日後)、4回目(21日後)に計4回の授精。
4回目の授精後5日目に黄体形成を確認したところ、それ程小さくない25mmの黄体を確認。
エコーで見ただけで、実際に黄体ホルモン濃度を測ってはいないので、牛がどのような状態にあるかは不明です。ブリードを挿入してみました。
27日令で妊娠鑑定をして子宮内に胎子がいることを確認。そして、ブリードを抜去!
再妊娠鑑定でも正常に発育している胎子を確認!
症例5 周期が長い牛は発情後5日目の黄体形成が不十分
周期が21日では無く25日以上の牛は排卵後の黄体形成が緩やかな個体が多いです。
下の写真は排卵後5日目の卵巣エコー写真です。黒く囲んだものが卵巣で、黄色く囲んだものが黄体です。ちょっと見にくいですが黄体が15mm程度しかありません。
特に和牛に多い感じがします。
このような牛を発見したら是非ブリード挿入を!!!

まとめ
自然発情の大切さ・何か少し変化を加え牛が受胎したお話でした。
PGといったホルモン剤が世の中にでてから、どれくらいの月日がたつのでしょうか。とても便利な注射剤であることは間違いなく、多くの畜産酪農家に恩恵をもたらしていることには間違いありません。30日の発情周期を10日に短縮することもできるのですから!
しかしホルモン剤も良いですが、それに頼るばかりではなく牛本来が持つリズムを大切にしたいものです。
長期不受胎が受胎することによって酪農家・畜産農家さんはかなり気持ち的にも楽になります。
なかなか受胎牛しない牛への対応、がんばっていきましょう!



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